マヨネィズ・ジェラシィ

 

パチンコで玉砕して、嘘みたいに財布が軽くなった昼過ぎ。

慰めに一風呂浴びようかと思い立ったが吉日で、

ついでに お義兄様との甘ぁい睦み合いを期待して、結野の屋敷に足を延ばした。

 

屋敷の前まで来たとき、思いもがけず、中から出て来る 件の人に遭遇した。

両腕一杯のでかい段ボール箱を抱えて、心なしか息切れしている。

「あらどーも。 御機嫌よう、お義兄様 」

「銀時。何じゃ、また時間潰しに来たのか。

 まぁ良い、入ってわしの部屋で寛いでおれ。戻ったらなにか用意させるから」

「お義兄様はどちらへ? 何ですかその大荷物。その貧相な腕、今にも折れそうじゃないですか」

「ちょっと失敗してな——見るか?」

困ったように独り笑うと、お義兄様は大儀そうに其れを地面に降ろした。

蓋が開くと、中は乳白色の地獄だった。

「ま、マヨネーズ・・・・・・?」

「25本じゃ。うちにはこれが、あと40箱もある」

「25・・・・・・40・・・・・・1000本!?

 なんすか、あんた、某警察機関のバカマヨラーのお友達だったんですか? 

 で、今日はマヨネーズプレイの要求ですか。ゲェエ」

「何の話じゃ。てか、そんなプレイ想像もしたくないわ!

 生協の宅配で色々注文したんじゃが、これだけアホみたいに届いたんじゃ。

 注文書に『4』箱、と書いたものを、先方が『千』本と間違えたようでの。字の形を」

「どんな間違い。バカでしょ、生協の人」

て云うか、江戸の守護を司る陰陽師様が 生協 ですか。

ホントこの人、庶民なのか天上人なのか解らない。

「仕方ないから、お隣におすそ分けじゃ」

「送り返しゃいいでしょーが」

「いちいち言い立てるのも面倒じゃ。沢山あって困るものではないし、余剰な分はこうやって人にあげればいいじゃろ」

「全部買い取ったってぇのか。 ボンボンはこれだから・・・・・・」

「ぬしも来た以上は1箱持って帰って貰うからな」

「はー・・・・・・いいですよ」

「おっ。いいのか。絶対逃げ帰ると思ったのに」

「1箱どころか、ダース単位で引き取ってくれるツテがありますんでね」

「それは心強い。——そういうわけじゃ。 よっと」

箱を持ち上げたお義兄様は、案の定よろけた。

「式神、使わないんで?」

「式神に行かせると道満の機嫌が悪くなる。わしが行かぬと」

「・・・・・・へぇ」

その口から、アノ痔ろう野郎の名前が出てきた時、急に、この人を困らせたくなった。

「じゃ、俺の相手はアイツの次にするってことですか」

「なんじゃ、その目は。 拗ねるな。他意があってのことではないぞ」

「俺は生まれつき こんな淀んだ目ですケド」

「そうではなく——ぬし——」

両肩を掴んで捕まえた。マヨネーズの重りのせいで、動きを奪うことは簡単きわまりない。

嫌な予感を察知して、お義兄様は精一杯 嗜めるような目を向けてくる。

それが逆に、フラストレーションが溜まりに溜まっている今日の俺を煽り立てるなんてことは知らずに。

「俺だって、お義兄たまに相手して貰えないと不満なんですけど?」

「だから——んぐ」

強引なキスで、無防備な口を塞いだ。

目の前で、公家顔特有のキレナガの目がギュッと閉じて、歯が拒むように合わさる。両手が使えないお義兄様の、最後の砦らしい。

後ろ頭を押さえて逃げられないようにしてから、舌を使ってソコをこじ開け、ネットリした口の中を暴き、逃げるお義兄様を絡めとって、思う存分に舌吸いをした。

クチュッ・・・・・・チュッ

ワザとでかい水音を立て、上顎の裏側を余すところ無く舐めて苛めてやる。 くすぐったがって ふぅん、と鼻息を漏らすお義兄様が可愛くて、この体の真ん中が、どうしようもなく熱に冒されてく。

じわり——何処かに痺れるような快感を覚えながら、どちらのモンかも解らない甘ヌルい唾液をかき混ぜ、口の角度を変えて、徐々に 深く深く味わって行くと、捕まえたままの肩がプルプルと震え始めた。

お義兄様は、ただでさえ重たい箱を持って立っているのがやっとらしく、今や、俺の責め立てを必死な息を零しながら受け入れていた。

 

「ふぐ——っ、ン、んんっ——ん・・・・・・」

 

——やめてくれ、と言いたげに 目の端に涙を滲ませ始めたところで、ようやく解放してやった。

「っは——はぁ、は——何するんじゃ、白昼堂々ぬしは・・・・・・ッ」

「口の端からヨダレ垂れてますよ」

「ヨダレと云うか、これは——ぬしのアレじゃろ——」

「もしくは、お義兄たまと俺のヨダレの混合物? 愛 液 ?」

「黙れ——」

「拭けないでしょ、そのままじゃ。

 ほっぺも真っ赤ですし・・・・・・その顔でお隣サンに会いに行ったら、どんな反応されますかねぇ?」

「・・・・・・馬鹿」

やむを得ず、お義兄様はセッカク持ち上げた荷物を下ろし、袖で乱暴に口を拭った。

「ねぇ お義兄様。 最近、ちゅーする時に目を瞑りますよね」

「それがどうした・・・・・・」

「すごくカワイイ」

「うぅっ、怖気が走ったわ」

「そいつぁ結構。 一体何処でそんなエロい仕草、習ってきたんです?」

「習ってなどおらん。体が自然にそうなるんじゃ」

お義兄様はそう言うと、荷物に手を掛けた。そして、ボソボソと呟いた。

「・・・・・・第一こんな事、ぬし以外とすると思うてか?」

一言で損ねた俺の機嫌を、一言で特上にまで回復させてしまうこの人は、魔法の生物としか言いようが無い。

「・・・・・・ナルホド」

「きもい。にやけるな。きもい」

「二回も言わなくていいでしょ。傷つくわー」

「これで気が済んだな? わしはもう行くぞ」

「どうぞどうぞ。 待ってるから、さっさと行って帰ってきて下さいよ、お義兄たま」

「誰がお義兄たまじゃ」

ツレナイ一言と向けられた背中を肯定と受け取って、俺も結野邸の門へと踵を返した。

 

 

マヨプレイ、という新たな領域を検証しつつ——

 

<fin>