「ぬし・・・・・・一体 わしの事を何だと——ッ——思っとるんじゃ」
「ちょっとォ。 邪魔せんで下さいよ、にィにィ。 せっかく人がオーガズムという名の天国を見せてあげようと」
「見たくない!見たくないぞ そんな失楽園! 何を勝手な——」
せっかく整っていた狩衣は、ヤツの手で好き勝手に乱されてゆく。
背中には畳、腹にはこの男が、べったりと張り付いて、どうにも逃げようが無い。
「こんな真っ昼間から、こんな開けっぴろげた部屋で・・・・・・っ!」
「へぃへぃ、襖閉めりゃいいんでしょうが」
「やりたくない と言っておるんじゃ! 帰れ!」
「やったら帰りますって。 じゃないと、ここに来た意味が無いんでねぇ」
「ただ飯を喰わしてやったし、風呂も貸したじゃろうがっ——友のよしみにも限度があるぞ」
「飯・風呂・エッチの3点セット揃って、お義兄さまのお屋敷なんでしょうが。俺のオアシスなんでしょうが。
乾ききった日々、乗り切る力を下さいよ」
「だから、ぬしはわしの事を何だと——」
・・・・・・ふりだしにもどる。
「——ぅぐ」
それにしても こやつは、わしの弱点を良く心得ているものだから、状況は悪くなるばかり。
「耳、弱いですよねぇ——?」
「いっ・・・・・・舐めるの やめっ・・・・・・」
「そんな仰け反っちゃってぇ——ピリピリきてんでしょぉ?——
あれぇ? 内股になってますよ・・・・・・ 可愛いですね、オ ニ イ サ マ」
脳髄が痺れるような低音で囁き、耳朶を食む。
「だ、誰が おにいゃまひゃッ」
「ロレツ廻ってませんよ。 てか、涙目じゃ無いですか。生まれたてのバンビちゃんじゃ無いですか」
「ぅるさいっ・・・・・・今度から、金欠で困っても絶対助けてやらんからな・・・・・・っ」
頬をムギっと抓ってやったが、ヤツのドS魂に火をつけるだけのようで。
お返しとばかりに、こちらの腿をしばいてきた。
「っ、何をするんじゃ」
「これは失礼。手が勝手に。
だが、なんと言おうとやりますよ。——そんな顔しなくても大丈夫ですって。 優しくするってぇ、多分」
「説得力無さ過ぎじゃ。グチャグチャに犯し尽くす気じゃ。涙でスープ作れるくらい泣かす気じゃあ」
「涙スープどころか ザー◯ン鍋作れるぐらい気持ち良くしてやるさ」
「気絶するわ。別の世界への扉が開いちゃうって」
「そして俺はまたひとつあんたが好きになるの」
「ぬし・・・・・・物凄ぉく良い笑顔じゃの・・・・・・」
もはや呆れて、わしは両手両足を投げ出した。
「あら、降参? まんざらでも無かったって訳か」
「ぬかせぇ」
調子づいた手が帯を解き、服の下に潜り込み、素肌の上を滑って、胸に到達した。
そのまま、まさぐるように撫で回してくる。蛇足で尻も。
「・・・・・・っ、わしが思うに——」
「うん。——いい尻してんよね、お義兄さん」
「陰陽五行で言うところの、攻め・・・・・・すなわち、『射れたい』という本能はじゃな・・・・・・」
「うん。——もう何回ぐらいココに突っ込んだっけ?」
「揉むな。——能動、動物、男 などを包括する陽の気。 ぬしの体で今、モーレツに昂っておる」
「へぇ。——ぶっちゃけさ、もう前ふりなしでブッ刺していい?」
「そんな事してみろ、貴様を一生肛門科通いにしてやるかんな——
一方受け、すなわち『突っ込まれたい』という欲望は、 受動、植物、女 を包括する陰の気——ぁ、待て——」
「・・・・・・何? やっぱ解さなくていいって?」
「襖、閉めろ・・・・・・それと、するときはちゃんと全部脱がせ」
「えぇえ。いや、俺的にはさぁ、
このシゴト服、体に引っ掛けたまま へろへろになってるあんたが一番そそるんですけど? にーたん」
「誰が—— この装いはな、 洗濯するのがとっても面倒なんじゃぞ」
「ああもう、いいから。 なんか興醒めだよ。ムード無ぇよ。そいうの、KYって言うんだよ」
「やかましぃわ。なんでぬしの変態趣味に付き合わねば——っちょ、——コラ
耳をねぶれば何でも許されると思ったら大間違いじゃぞ」
「まァまー。 —— それより続き、聞かせてもらえませんかねぇ。たまたまーァ?・・・・・・」
「たまたま揉むな。—— ぬし、全く聞いとらんだろうが?」
「きーてますよ。ナカナカ興味深いお話ですね。射れるだの、突っ込むだの」
「・・・・・・男が陽、女が陰——つまり、性行為と云うのは、陰陽の合体を行う行為。
光と闇を、硬と柔を、火と水を、まぐわらせる行為。そして生まれるは・・・・・・何じゃ?」
「性的趣向、的な? 縛られたいとか縛りたいとか果ては縛られて鼻フックで苛められたいとか」
「ソッチ方面の話では無い。・・・・・・陰陽が交わったとき、生まれるは此の世の原初、すなわち、混沌じゃ。
女が男の陽を受け入れた時、その体は、陰でも陽でも無い、カオスの性質に変わる。
だが、やがて子を宿せば、カオスは解消し、女はふたたび陰の性質を取り戻す。
——ならば、子を生さぬ男同士の性交はどうなるか。
それは、カオスを延々膨張させて行く行為に過ぎない」
「すんません、まとめてもらえますか」
「わしとぬしのエッチはだな、やればやるほど依存的に、マニアックに、過激になっていく恐れがある。
だから今のうちにいっておくが、互いに節度を保ち、自重を心がけよう。解ったか?」
「前ふり、どんだけ長いんですか」
「解ったかと訊いておるんじゃ。さもなくば屋敷への出入りもご遠慮して貰うぞ」
「・・・・・・エッチさしてくれない義兄上なんて、香りの無ぇ松茸・・・・・・
ただの、へにょっとした、ちょっとヒワイな形の菌類・・・・・・」
「今すぐ叩き出してやろうかぁ!」
「冗談ですよ、冗談。 義兄上のお言い付けならば仕方無い。 節度ね。自重ね。了解。
——さて。
そろそろ堪能さして頂いてようござんすね? お義兄さまの狭ぁいところを」
「ぬし、本当に解って ・・・・・・おらんな。解る気もないだろうな。これっぽっちも!」
「勿論ですとも。 邪道を行く限りは、徹底的に突っ走りましょうや、ご一緒に」
「嫌じゃ」
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