スコーピオン

 

  真夏の太陽は、消え行く前にと全霊で燃え尽きようとしているらしい。

 降り注ぐきつい夕陽を遮ろうと手を伸ばしていたところ、横合いから白い手が伸びてきて、難なくカーテンを引いた。

 「あ、どうも」

 汗ばんだ額を拭いながら見ると、少将は何時もの冷めた一瞥をくれた。左腕には、金色の液体が満ちた瓶を一本抱えている。

 「まったく不便だな。 横着せずに看護婦を呼べ」

 「カーテン閉めるぐらいでナースコール鳴らすほうが横着ってもんでしょ」

 「馬鹿を言うな。 直射日光が直撃してたぞ。 ベッドの上で干からびる気か」

 彼女は遠慮なくベッドの縁に腰掛けながら言った。

 「今飲むか?」

 「もらいます。ありがとうございます ――あ、アップルジャックっスか。 俺すごい好きです」

 そうか、と素っ気無く言いながら、彼女はコルク抜きの螺旋を回した。

 やがて、蒸しかえる病室に林檎の香りが発散した。

 無骨なブリキのコップを受け取り、たゆたう酒に口をつけると、一気に全て飲みつくしてしまった。ひどく枯渇していた体に、滑り落ちていく香り高い冷たさを遮るものは何も無かった。

 「美味いか?」

 俺は頷いた。

 すると、彼女は何の前触れも無く、体を凭せ掛けてきた。

 「このまま寝ちゃわないでくださいよ。 この前みたく」

 俺は彼女の手から瓶を拝借しながら言った。

 「こちとら仕事帰りだぞ。疲れた。好きなときに起こせ」

 「俺も寝ちまうから駄目です――」

 とはいえ、俺は彼女の枕に甘んじて、申し訳程度に肩を抱いた。


 ブリキのコップの中には金色の砂漠が広がって、もうじき日が暮れようとしている。


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