蝶たち

 

「蝶を見たか?」

 私の腹の上を征服した彼女は、戯れに脚を交互に上げ下げしながら言った。 そのために、ベッドは僅かに揺れ続け、シーツがぱたん・ぱたたん、と不規則な音を上げている。

 「ええ。 (こっち)に来てからは沢山見かけますね。 蝶はお好きで?」

 「好き? ・・・・・・考えたことが無いな」

 「見る機会無いですしね」

 私の手は、僅かに濡れた滑らかな背中を移ろって、金の滝を梳る。

 「でも、即座に嫌いと答えなかったということは、好きだということではありませんか」

 「なぜそう言える」

 「嫌いなものは嫌いでしょう。 特に貴女の場合は――」

 またひとつ、衝動に任せて、瑞々しい唇に口をつけた。

 「んっ」

 後頭を引き寄せて深く味わい、息継ぎとともに解放する。 

 彼女はこちらを睥睨しながらも、白い喉でひそやかに嚥下をした。

 「それが顕著です」

 私は彼女をシーツへ緩やかに横たえ、抱き寄せて、笑んだ。 

 彼女は、鼻息を一つばかりくれた後、喉を鳴らす猫のように眼を細めた。

 「――そういえば、小さいころ不思議に思っていたんだが・・・・・・あいつらは、一体何処で眠るんだ?」

 「蝶が、ですか? ・・・・・・さぁ」

 確かに夜に、舞い遊ぶ蝶を見た事が無い。 街灯に集っている蛾を一瞬想像した。

 「何処か草陰でしょうか。 さもなくば森に入って、群れで眠るのかもしれません」

 「そうか――」

 それぎり、彼女は私の胸に顔を埋めて、言葉を吐き出すのを止めてしまった。

 私はそれに殉じて瞼を下ろし、とろりとした疲れと、枕の柔軟さと、腕の中の熱を有りがたがった。


 ――まあ、確かに何処かで、眠ってはいるのでしょう。

 

 <end>