「少将は、雪が解けたら何になると思いますか」
「水だ」
ずばり、その身も蓋も、ついでにムードも無い答えは予想済みで、俺はまんまと上機嫌にさせられる。
「ハズレです」
ベッドの傍ら、極上の見舞い客は、整った眉をしかめ。
「は? 東部の若造は雪も見たことないのか?」
「北での合同演習で嫌というほど味わいました。 じゃなくて、簡単な謎々ですよー」
「マンモス」
春 です。
なるほどでしょう?
ちなみに俺の寝たきり生活も昨今は、何故かパプリカ片手に気まぐれにお見舞いに来てくださったりするチャーミングな貴女のお陰で春真っ盛り――
「帰る」
「待ってください! 何で帰るんですか!」
「いつ帰ろうと私の勝手だろうが? 見舞った、パプリカを差し入れた、しかるのち帰る。自然な流れだろう」
「いや、何で今なんです。 せめて謎を解いて行ってくださいよ」
「くだらん。 何で貴様の暇つぶしに付き合わねばならんのだ」
「じゃあ、なんでそもそも見舞いに来るんです。いや、嬉しいですけどね!」
「マスタングがやかましいからだ。
ついでに、景気よく脚をぶった切って寒冷地仕様の機械鎧につけかえる、という案を貴様に提示するためだ」
そうでしたね。――でも、俺の場合は、要するに脊椎の問題なので、脚だけ取り替えたところでどうにもならないのが現状らしいですよ――と、いうのは今のところ言わずに来ている。
「――ああ、そういえば、大佐は即答でしたよ」
「何がだ」
「だから――雪が溶けると何になるか、です」
すると、彼女の眼の色がどうやら変わったので、ちょっと驚いた。
「あのヒョットコに解けるだと・・・・・・?」
ヒョットコでも、ロマンチックな言葉遊びはお手の物ですから、奴は。
彼女は深く腰掛けて腕を組み、考え始めた。
これは嫉妬すべきかねぇ、などと陽気に思いつつ、枕もとのパプリカを転がした。
――精気がつくから喰え、だそうです。
赤い。 ああ、赤い! 赤すぎる。
もうパプリカ無しじゃ生きられないと、甘美な日々を予感する。
しかしまぁ、女の話で大佐に感謝した人間なんて、後にも先にも俺一人だろう。
<end>