案山子

 

田舎道の真ん中で、脚の折れた案山子を見つけた。
 
 なんだってこんなにも暑い日に、陽炎の立つ日なたに転がっていたりするのだろう。
 
木陰に引きずり込んで木に凭れさせ、ついでに脚に接木して応急処置してやったら、たちまち滝のような汗を流す羽目になってしまった。陰を選んで歩いてきたのが台無しだ。うんざりしたが、長い道を来て疲れていたのもあって、そこで休むことにした。
 
「ああ、暑かった。どうも有り難うございました」
 
 喉に水を流し込んでいると、やや掠れた声がした。
 
「・・・・・・いま、喋ったか」
 
「ええ」
 
継ぎ目のある口で、一人前に喋るときた。
 
 それにしても、案山子にしては小奇麗な顔した奴だ。彫りの深い目鼻立ちに赤い眼と褐色の肌など、凝った造りを与えられている。たかがカラスを追っ払うだけのくせに、蛇足にもほどがある。どこぞの暇人が戯れに造ったのだろうか。身なりはボロ雑巾のほうがまだましと言えそうだが。
 
「ご機嫌はいかがですか?」
 
「別に。悪くは無い。お前はどうなんだ」
 
「あんまりいい気分ではないですね。ご覧の通り、脚は壊れるし。そうでなくても、日がな一日突っ立ってカラスの相手をしているのは退屈なものです。何処へ行かれるのですか」
 
 「知らん」
 
 「知らんって」
 
 知らんものは知らんのでしょうがない。 
 
 「強いて言うなら、この黄色い煉瓦の道、ずっと行って、行き着くところまで、だ」
 
ひどく大儀になってきて、私は案山子に凭れた。こき使ってきた脚が溜め息をつく。
 
 
銀の靴を眺めれば、それらは汚れひとつ無く、煌めいていた。 私を置き去りにしようとしているようだ。
 
 
手持ち部沙汰に案山子を見上げると、赤い眼が見返してきた。
 
頬をつついてみた。皮は人間に近かったが、中にガサガサと詰まっているのは紛れも無く藁だった。
 
案山子は、眉の端をちょっと下げて笑った。
 
「お陰で、私は何も知らない。知ることができないのです」
 
 「脆い奴だな」
 
 「案山子ですから」
 
 どうにも心地がいいのは、こいつの藁が太陽のにおいを放っているせいかもしれない。
 
 このまま少し眠ろうか。それも悪くない。
 
 
 
 「――良ければ、また歩き出す時は、私を連れて行っていただけますか」
 
まどろみのなかで、頷いたような気がする。
 
 
 
end
 
オズ
 
マイルズさんの後ろ髪が藁っぽいので